2025年度 研究大会を振り返って
阪本崇(京都橘大学)
2025年度の研究大会は、「文化・芸術とメディア――テクノロジーによる生産と消費のパラダイム・チェンジ――」をテーマに、7月5日(土)と6日(日)の2日間にわたって、京都市山科区の京都橘大学で開催され、約120名が参加した。大会1日目は、特別企画として2部構成の全体プログラムが行われた。第1部の基調講演では、「TEZUKA2020」など文化・芸術に関わるプロジェクトも手がけてきた松原仁氏(京都橘大学/人工知能学会元会長)が、AIによる文化・芸術の創造がどの程度可能になっているか、逆にAIにはまだできない部分は何か、そして文化・芸術を取り巻く経済への影響の可能性について、豊富な実例を交えながら講演を行った。小説・俳句・漫画・音楽といった感性の領域でAIが人間と共作する具体的なプロジェクトが紹介される一方、AIによる大量創作がもたらす著作権問題や人間の創作活動の位置づけといった倫理的・法的課題にも言及があった。AIが一定の創作能力を持ち始めた現状を踏まえ、人間と技術の役割分担を問い直す時代に入ったとする問題提起は、文化経済学の観点からも示唆に富む内容として広く受け止められた。本講演は、本学会として新たな研究領域への一歩を踏み出したものであり、今後は他学会との連携も視野に入れながら議論を深めていきたい。
第2部のラウンドテーブル「まちにAIを実装する〜文化とコミュニティの視点から」では、基調講演を踏まえ、AIをはじめとするテクノロジーがまちなかの文化・社会活動、伝統文化に関わる企業活動、さらには文化政策や公共政策の領域においていかに活用されうるか、その課題は何かについて多角的な議論が展開された。登壇者は松原仁氏に加え、デジタルテクノロジーを駆使して多様なクライアントと協働するテクニカルディレクター集団「ベースドラム」メンバーのアーティスト・毛原大樹氏、1720年創業の呉服メーカーの取締役兼編集者である矢代真也氏、本学会元会長の河島伸子氏(同志社大学)であった。モデレーターを小泉元宏氏(立教大学)、司会を佐藤良子氏(静岡文化芸術大学)が担い、「伝統と革新のまち」京都の事例を交えながら、人々の関係性構築や老舗企業による伝統の継承と刷新など、さまざまな領域におけるテクノロジーの可能性が考察された。
これに先立ち1日目の午前には、特別テーマ関連分科会として、AI社会と文化政策の交差点をめぐる発表と討論が行われたほか、特別テーマ関連の会員企画セッション「文化政策研究における人文情報学的手法の導入」では、行政文書のオンライン公開やオープンサイエンスの進展などについて、具体的事例を通じて文化政策研究の拡張可能性が検討された。
大会2日目は、「まちづくり」「伝統文化・クリエイティブ産業」「計量分析」「文化教育」「文化観光」の各分科会での研究発表に加え、3つの会員企画セッションが同時開催され、計23本の発表がなされた。なかでも「文化経済学と実証分析――永山貞則先生追悼セッション」では、文化統計の整備と実証分析への多大な貢献を改めて顕彰するとともに、先生の薫陶を受けた研究者による報告と討論が行われ、学会として永山元会長の学恩に応える機会となった。
今大会では、クラウドによる資料配布や分科会の報告間へのインターバルの導入など、運営面の合理化にも取り組んだ。また、大会テーマの名称を従来の表記から「特別テーマ」と改め、関連の会員企画や分科会を有機的に組み合わせる形式を試みた。まだ道半ばではあるが、より良い大会運営の形を引き続き模索していきたい。

