私のトピック 《 保田 優太 氏 》
経済産業省 保田 優太
①私が「伝統染色」を研究している理由
私は昨年夏の研究大会にて発表をさせていただいた。(大変ありがたいことに賞もいただき、感謝の限りである。)その際のテーマは、日本の伝統染色の戦後史と持続可能性についてであった。
▶参考:/2025_Conference_Outstanding_Presentation_Award.html
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私がこのテーマを研究している理由は、家業が「伝統染色」と深く関わっているためである。具体的に申し上げると、我が家は江戸時代から浅草で「染料店」を営んでいるのである。「染料店」というと耳慣れない言葉かもしれないが、暖簾・半纏・着物といった伝統的な染色品の生産を支える染料や道具を、製造し販売している店である。
▶参考:https://www.aikuma.co.jp/
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既にお察しいただいているかもしれないが、他の伝統工芸と同じく、伝統染色の領域の需要は縮小傾向にある。言うまでもなく、家業の事業環境も、明るいものとは申し上げられない状況だ。このため、(半分は仕方なくだが…笑)私は学生の頃から家業を手伝い、海外輸出の促進や業務効率化などに従事してきた。そしてその過程で、伝統染色には需要減退だけでなく、供給制約のリスクも生じていることに気が付いた。さらに、この問題が業界内では認識されつつも、学術的には十分に論じられていないことにも危機感を覚えた。 こうした背景から、伝統染色における供給面での課題(=持続可能性)についての研究を始めたのである。
▶参考:https://todai-umeet.com/article/70258/
研究を行う中、多くの職人や(染工場の)経営者から、先行きの不透明さを憂慮する声を聞いた。そうした中、大学で行っていた研究を続けていくべきであると感じ、文化経済学会に入会、研究を継続させていただいている。この夏に千葉で開催される研究大会においても、後藤和子先生にお声がけをいただき、伝統工芸産業の原材料供給についてディスカッションをさせていただく予定となっている。ぜひ足をお運びいただけると幸甚であるともに、その場で会員の皆様と会話させていただくことを楽しみにしている。
▶参考:/taikai/20260623-120000-3228037.html
②「伝統染色」そして「和空間産業」へ
1で述べたように、私は主に供給制約についてを中心に課題設定を行い、研究を行っている。しかし、産業は「需要と供給」の双方があってはじめて成立するからこそ、問題意識は「需要面」にもある。そこで、伝統産業の「需要面」における私の想いについても、(研究内容が「供給面」中心のものであるからこそ)普段はあまり発表する機会がないことから、手前味噌ながら少しご紹介させていただきたい。なお、私の認識や見解は、所属組織と関係しない旨、念のため申し添えさせていただく。
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家業の仕事柄、今まで、染色以外の伝統文化にも触れる機会が多かった。そして日々感じるのである、日本の伝統文化は素晴らしいと。
しかし、その価値は抽象的な「文化」だけによって支えられているわけではない。伝統染色をはじめとする個別産業が存在するからこそ、日本文化は具体的な姿を持ち得ているのである。 一例をあげると、着物なくしては茶道は成り立たぬように感じるし、暖簾をくぐる体験こそ和食を和食たらしめているように思う。このような、「個別なくして総体なし」という文化の側面は他産業にも当てはまるだろう。例えば、畳あっての茶道、日本酒あっての和食と言われれば、それは限りなく真に近く感じるのだ。
しかし、世界でこれほどまでに日本文化が人気を博している中、その総体を支える個別産業(伝統染色産業や畳産業など)の需要が減退している事実は、極めて重い。私たちはもっと、こうした所謂「伝統産業」こそ、日本文化を支えているという矜持を持ち、需要開拓を目指していくべきではないだろうか。畳・襖・漆器・染色品――それぞれの産業で、それぞれのプレイヤーが孤軍奮闘しているだけの状況を続けていて良いのだろうか。
私は、和食・畳・日本酒・陶磁器・染色品といった個別産業を、より包括的な「和空間産業」として捉え直す必要があると感じている。 暖簾をくぐって蕎麦屋に入る、和室で一服しながら談笑する。こんな風景は、我が国の日常生活から決して失われてはならない。そのためにも、「和空間産業」として関連する個別産業が協業・連携することで、より大きな付加価値を創出し、新たな需要を開拓していくことが重要になるのではないだろうか。
もっとも、「和空間産業」という構想も、それを構成する個別産業が持続可能であってこそ成り立つものである。こうした問題意識から、私は引き続き原材料供給や職人の担い手不足といった供給制約の研究を続けていくつもりだ。他方、「和空間産業」という、伝統産業の「需要面」における私の構想や問題意識についても、改めて論じる機会を設けたり、会員の皆様とも意見交換をさせていただくことができたりすれば大変嬉しく思う。引き続き、文化経済学会<日本>の会員の皆様にはご指導ご鞭撻をいただきたく、よろしくお願い申し上げさせていただき、本文を締めさせていただく。このような機会をいただけたことに深く御礼させていただきたい。

